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2024年05月30日

ゲームは子どもの脳の発達に悪いの?良いの?どうしたら良いの?

ゲームと子育ての関係に悩むご家庭は少なくありません。

かつて、親御さん自身も夢中になったテレビゲーム。

それが今や、デジタルゲームや携帯ゲーム、オンラインゲームと、形を変えながら子どもたちの身近に存在しています。

トランプやボードゲームなどのアナログゲームを除けば、今や「ゲーム」といえばデジタルコンテンツを指すことが一般的です。

しかし、そんな「ゲーム」に子どもが熱中している姿を見ると、なぜか不安を覚える親御さんは多いのではないでしょうか。

一体、その不安の正体は何なのでしょうか。

本記事では、子どもとゲームの関わり方について、脳との関連性を考えながら解説していきます。

 

ゲームは子どもの脳に悪いの?

2001年に東北大学の脳科学者の川島隆太教授が、脳科学の研究費をゲーム会社から支援してもらうために、ゲームをしている時の学生の脳の活動についてfMRIを使って計測を行いました。

その結果、予想に反して脳の活動範囲が少なく、前頭葉の働きが少ないことが判りました。

同時に比較検討の為に行った一桁の足し算や引き算のほうが、脳の活動領域が多く、前頭葉が活発に働いていることが判り、その内容を書籍とした「自分の脳を自分で作る」を出版すると、マスコミに取り上げられ、脳の関係に大きな注目が集まりました。

そんな中、2002年に日本大学の脳科学者の森昭雄教授が出版した著書『ゲーム脳の恐怖NHK出版)』において提示した前頭前野β波が低下した状態を表す造語である「ゲーム脳」が注目され、世間に広がりました。

森昭雄教授によると、6~29歳の男女240人を対象にした実験では、テレビゲームをするときにはベータ波が低下することが分かりました。

ベータ波とは、人間らしい感情や創造性をつかさどる大脳の前頭前野が活発な時に出る脳波で、ほとんどゲームをしない人は、ベータ波がアルファ波よりも強く出ます。

一方で、週3~4日、1~3時間ゲームをする人は、ゲームを始めるとベータ波の活動が極端に下がり、毎日2~7時間ゲームをする人は、ゲームをしていなくてもベータ波は常にゼロに近く、前頭前野がほとんど働いていなかったそうです。

大脳の前頭前野は、脳の本能をつかさどる部分を抑制する働きがあり、ここの働きが悪いと、行動が子供っぽくなったり、感情のコントロールが出来なくなるそうです。

また、聞き取り調査の結果、毎日ゲームを2~7時間する人は、「キレやすい」「集中できない」「友達づきあいが苦手」という自覚が多いことも判明したそうです。

さらに保護者にとって心配なのが、ゲームをやり過ぎることで依存症になるのではないか という事です。

精神医療の標準化を目的として編纂されている『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』という本があります。

2013年に改訂された第5版では、「今後の研究のための病態」の項に、遂に「インターネットゲーム障害」という言葉が登場しました。

ゲームは、その構造上 脳が興奮状態になるように作られており、クリアすることで得られる達成感によって興奮状態となった場合、脳は快楽物質であるドーパミンを大量に分泌、少なくなると脳に催促するという負の連鎖につながり、ゲーム依存症となってしまいます。

デジタルゲームへの依存症は、特にオンラインゲームでよく起きるため、このような病名となったそうです。

特に現代のオンラインゲームは、インターネットを通じて複数人と繋がってプレイすることができるため、一人の意志では辞め辛くなり、何時間もプレイしてしまいます。

2019年5月、世界保健機関(WHO)はゲーム依存症をゲーム障害と称して、国際疾病として正式に認定しました。

 

また、日本より早くからゲーム依存が社会問題になった中国では、ネットゲームが脳に与える影響の解明が進められています。

復旦大学教授の田梅さんは、20歳から26歳までの26人を対象に、ネットゲーム依存の人とゲームをしない人の脳を調査しました。

その結果、ネットゲームをすると大量のドーパミンが放出され、これを受容体が受け取ると幸せな気分を感じる脳の回路が活性化し、ゲームが習慣になっていくことが分かりました。

しかし、ゲームを長時間行って脳の中にドーパミンが大量にある状態が続くと、受容体の数が減ったり、感受性が低下したりします。

ゲームを長時間すればするほど、受容体は減少し、さらにドーパミンを出し過ぎることにより、生産が追いつかず分泌も減ってきます。

最終的にはドーパミンを分泌する能力も受け取る能力も低下してしまい、やる気や幸福感を感じられない状態になってしまうのです。

 

ゲームに良いことはないの?

「ゲームをするとバカになる」「勉強の時間を奪う」と悪者にされてばかりのゲームですが、最新の脳科学の研究によれば、ネガティブなだけではなく、脳を若く保つ影響もあります。

ゲームに関する多くの論文の中には、スーパーマリオ64で空間認知、記憶、戦略性が増大したという論文があります。

ドイツの研究機関の報告でスーパーマリオゲームをしているときには、特に海馬や前頭前野の働きが活発になることがわかりました。

海馬は、記憶を司る部位、そして前頭前野は社会性や計画性、戦略を司っています。

すなわちゲームには、記憶力や計画性、戦略性を高める効果が期待できるというわけです。

さらに、小脳で神経細胞やそのまわりの組織の層が厚くなっていることもわかりました。

小脳は身体の運動を司る脳部位なので、ゲームをすることで身体のいずれかの運動機能にいい影響を与えるといえそうです。

 

また、「ゲームでボケ予防」という取り組みもあります。

例えば、同時並行で物事を進める料理のような作業では、記憶や認知、戦略性などの高い情報処理を行っています。

認知症を患うとそれが難しくなるわけですが、ゲームはこれらの関連する脳の機能を高めてくれるのです。

つまり、「ボケ予防にゲーム」は一理あるというわけです。

ただし、プレイによって負荷があまりに続くと脳にとってもストレスになり、脳が過度にストレスホルモンに晒されると、神経細胞の機能が低下し、最悪の場合死んでしまうこともあります。

12時間程度で済んでいるならいいですが、「もっと、もっと」と囚われると「依存」の状態になる恐れもあるということです。

脳は、神経細胞と神経細胞をつなぐ脳神経線維が非常に多くに存在しますが、生まれたての赤ちゃんにおいては繋がりが弱く、成長と共に強化されていきます。

そんなメリットとデメリットの双方があるゲームですが、ゲームをプレイするための限られた領域しか使わない状況が続くと、ゲームは上手になったとしても他の脳の働きは成長せず様々なことに対応できない偏った脳になってしまうことになります。

社会に出て適応障害となってしまわないように、ゲームのプレイ時間は適切に調整し、バランスの良い脳を育てましょう。